過去のベーシック・インカム(BI)の”実験データ”一覧【近現代編】

今回も、エントリの執筆途中で入手したベーシック・インカム以下BI)関連の情報をまとめていきたい。
このエントリでまとめる情報は、BIの過去の”実験データ”である。

僕は、以前にも『ベーシックインカム(BI)の実験結果「労働意欲に影響なし」』というエントリで、イランで行われた実験について紹介した。
実はそれ以外にも、過去にBIと同様の取り組みが行われた事例はいくつかあるのだが、あまり世間で知られていないような気がするし、せっかくなのでこの機会に解説したい。

BIに限った話ではないが、どれだけ机上で議論を重ねたところで、何が起こるかは実際にやってみないと分からないことが多い。
よりBIの議論をリアルなものにしていくためにも、このようなデータに触れておくことは非常に重要である。

なお、今回は21世紀以前に行われた関連法制に対して考察し、最近行われたイランやカナダでの実験などは別エントリで取り上げることとする。
なぜなら、最近の取り組みは僕がまとめるまでもなく知っている人が多く、古い取り組みのほうが緊急度が高い、と考えたからだ。

MINCOMEプロジェクト[カナダ:1974-79]

MINCOME(ミンカム)とは、カナダのマニトバ州ドーフィンという小さな町で、約5年間に渡り実施されたBIのパイロット・プロジェクト(実証実験)である。
ちなみに、5年で実験が終わったのは上手く行かなかったからではなく、MINCOMEを実施した政党が凋落してしまったためだ。

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(※ドーフィンはカナダのこの辺らしい)

BIを論じる上で、最も重要な実証実験のひとつがこのMINCOMEだ。
なぜなら、実験結果のデータが非常に豊富で、およそ正確な予測に必要な材料が揃っているからである。

<給付対象>
カナダのマニトバ州ドーフィンの全住民約1万3000人

<給付金額・内容>

4人家族の場合、貧困線として設定されていた金額、年間で現在のおよそ1万9000ドルを小切手で支給した。
MINCOME以外での収入がある場合は、収入1ドルにつき支給額が約50セント減額される。
これに対する政府の予算は現在の8300万USドルで、当時の予算全体の4分の3を占めていた。

<結果>

・メンタルヘルス、交通事故、傷害が減少し、入院期間が8.5%減少(=医療費の削減
・Grade11-12(高校課程)への進級に大きな伸びがあるなど、学業成績が向上した
・労働時間の減少は男性で1%、既婚女性で3%、未婚女性で5%低下と、ほとんどみられなかった
晩婚化が進み、出生率が下がった

<備考・懸念点>

・BIに医療費の削減効果があること
・学業成績の向上が日本でも見られるか?
・BIの廃止による影響
・出生率が向上しなかったこと

<参照>

・Wikipedia(英語版)
(https://en.wikipedia.org/wiki/Mincome)
・A Canadian City Once Eliminated Poverty And Nearly Everyone Forgot About It
(http://www.huffingtonpost.ca/2014/12/23/mincome-in-dauphin-manitoba_n_6335682.html)
MINCOMEhs日本語の解説があまり無いのですが、↓のブログが簡潔で分かりやすいです
・1970年代のベーシックインカム社会実験、カナダ・マニトバ州の「ミンカム」の成功と失敗
(https://drive.media/posts/10872)

スピーナムランド制度(救貧法)[イギリス:1795-1834]

イギリスの産業革命の時代に行われた制度で、『救貧法』でよく知られる一連の法制の一部である。
約40年という、比較的長い間行われていたことから、長期的な観点でのBIの社会的影響を論じるにあたり重要なサンプルとなる事例だ。

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(※当時のイギリスは、まさに産業革命に突入していく瞬間であった)

特に労働倫理の観点から、BIに対して批判を展開する時に用いられることが多い法制であるが、その内容をご紹介したい。

<給付対象>

イギリス全土における、働いていても下限収入を下回る男性とその家庭
(当初はバークシャーのみであったが、最終的にイギリス全土に広がった)

<給付金額・内容>

・”最低限の生活”が出来る水準まで、収入の差額を補填する
・”最低限の生活”の基準として、パンの価格*家族数という基準が用いられた

<結果>

・定説としては「大失敗に終わった」とされている
・(国が勝手に収入を補填してくれるので)労働力は劣化し、また、賃金も低下した
・補填に必要な金額が増加し、スピーナムランド制度の原資である”救貧税”が膨大に膨れ上がった
救民税を負担する非貧困層が貧困化し、貧困層は増加した
(※1万ページ以上もの膨大な報告書で裏付けられており、かのカール・マルクスですら、著書『資本論』のなかで、その報告書をもとにスピーナムランド制度を批判している)

<反論>

・上記の報告書の大半部分が「捏造されている」という指摘がされている
(例:報告の大半がデータ収集前に回答されている、回答数が全体の10%しかない、質問が誘導的で回答の選択肢が限られている、対象のほとんどが非受益者である等)
・貧困層の増加や賃金の低下は、脱穀機の発明金本位制によって、多くの労働者が苦境に立たされていたからである
・また、スピーナムランド制度が施行されなかった村でも、同様の状況に陥っていた

<備考・懸念点>

貧困層のみに恩恵がある
・マルクス=エンゲルス時代と、現代との労働の概念や社会情勢の違い
・定説と反論の採択

<参照>

・Wikipedia『救貧法#スピーナムランド制度』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%91%E8%B2%A7%E6%B3%95#%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E5%88%B6%E5%BA%A6
・橘玲『ベーシックインカムは「愚者の楽園」 週刊プレイボーイ連載(41)』
https://www.tachibana-akira.com/2012/03/3855
・In the Shadow of Speenhamland: Social Policy and the Old Poor Law
 -スピーナムランド制度の報告書の分析がショボい、という指摘をしている文書、らしい(未読)
http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0032329203252272
・ルトガー・ブレグマン『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』第4章
http://amzn.to/2FEMbVs

最後に

さて、今回は以上2つの実験データを紹介し、まとめてみた。
ミンカムのように上手く行った話もあれば、スピーナムランド制度のように失敗例とされているものもある。

重要なのは、この実験の結果や内容をそのまま現代に当てはめるのではなく、当時の社会情勢などを踏まえ「現代ならばどうなるか」を考え、BIを論じることである。
そして、上手くいった点を吸収し、失敗した点はどう改善すべきかを考える必要がある。

さて、次回は、比較的最近のBIの実験について取りまとめたい。
こちらの方が興味のある人もいるだろうが、どちらの情報も身につけた上で、BIへの知識を深めていくことをおすすめする。

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