【読書録】『確率思考の戦略論』-森岡 毅・今西 聖貴 共著

先週19日、ここ関西では気象庁より梅雨明けが発表され、巷では海水浴やプールがついに解禁となりました。
そんなイベントに合わせるかのように、夏の暑気はいよいよ本格的になりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

さて、久しぶりの書評エントリ。
今回紹介するのは、USJでその辣腕を振るった二人の名マーケター/アナリストによる『確率思考の戦略論』だ。
森岡氏と今西氏の両氏は、今や語るべくもない伝説的な存在で、彼らが入社した後のUSJの奇跡的なV字回復は記憶に新しい。


日本経済新聞のHPより画像引用)

こんなクソ暑い中わざわざ確率やら統計の本を読むことなんてなかろうという感じだが、これがかなり冷静なマーケティングの良著で、読んでいてとてもおもしろかった。
本の装丁もすごく美しいし、夏の長期休暇にぜひご一読あれ。

早速で恐縮だが、僕はなんちゃってマーケティング野郎が余り好きではない。
なぜなら、どうもうさん臭いというか、”根拠”や”論理”に乏しい印象が抜け切らないからだ。

結果論で、帰結的に「こうすればいいんやで」と教えられても「ん〜…」という感じだ。
ひどいやつになると、イケてる雰囲気だけでマーケターになりたがるヤツも居て、とても厄介だ。

なんでこんな印象を抱いているのかだが、もしかすると僕個人の体験が原因なのかもしれない。

僕のように文系の大学で学び、周りも文系人間が多いような環境においては、しっかりと物事を勉強している人というのはとても少ない。
とはいえ、たまにはビジネス的なものに興味を持っている人もいるのだけど、残念ながらその内の多くが先程のなんちゃってマーケティング野郎だったりする。
(他には法曹系が多くて、その2つを除くと他にはほとんど居ない。笑)

そんな僕のマーケティングのイメージを変えたのが、本著のメインテーマ”数学マーケティング”だ。
数学マーケティングとは、需要・効果予測といった数値の根拠を数学的に担保したマーケティングのことである。

この数学的な数値根拠が非常に考え抜かれていて、フェルミ推定のようなこじつけではないことが、本著を読んだ読者の方なら分かるだろう。
広告などの効果を数値化するNBDモデル(負の二項分布に基づいている)などは、驚くほど正確で、数式もすごく美しい。

それに、”Evoked Set”と”Preference”の関係性の説明も非常に面白く、すごく腹落ちした。

Evoked Setとは、消費者が脳内に無意識に持っている”買っても良いと思うブランドの組合わせ”で、Preferenceはブランドに対する”相対的な好感度”のことだ。
(ちなみに、本書ではこの”Preference”の向上を最重視すべきと説いている)

たとえば、ビールが好きなサラリーマンなら、サントリーとかアサヒ等ブランドがEvoked Setに入っている。
Evoked Setには、合わせてPreferenceによって決められた「実際に購入する確率」が組み込まれている。
(サントリー:キリン:アサヒ = 50:30:20という具合だ)

このリーマンが「ビールを買う」という行動はすなわち、”Evoked Setのサイコロを転がす行為”ということなのだ。
このサイコロは、「サントリー:キリン:アサヒ = 50:30:20」なら、3面がサントリー、2面がキリン、1面がアサヒのサイコロというわけだ。

そして、自社ブランドが記されたサイコロの面の数を少しでも多くすること(=Preferenceの向上)こそが、マーケティングの本質なのである。

消費者はみな、自分で買うものは自分の気分で決めているように思われるのだが、実はサイコロを転がしているだけ、というのは非常に面白い観点だ。

そしてサイコロを転がすという行為は、確率以外の何物でもない。
したがって、数学的アプローチを受けるものなのだが、そのことを分かっている人は実はあまり多くないのかもしれない。

確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力

<概要>
世界屈指のマーケター&アナリストが、USJに導入した秘伝の数式を公開。
ビジネス戦略の成否は「確率」で決まっている。
その確率はある程度まで操作することができる。
八方塞りに思える状況でも、市場構造や消費者の本質を理解していると、勝てなさそうに見える局面や相手に対しても勝つチャンスのある戦い方、つまり勝つ確率の高い戦略を導き出すことができる。
その戦略を導き出すのが「数学マーケティング」である。
<著者>
森岡毅
1972年生まれ、兵庫県出身。神戸大学経営学部卒業。96年、P&G入社。日本ヴィダルサスーンのブランドマネージャー、P&G世界本社(米国シンシナティ)で北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを歴任。2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させる。
12年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長

今西聖貴
1953年生まれ、大阪府出身。米国シンシナティ大学大学院理数部数学科修士課程卒業。水産会社を経て、83年、P&G入社。日本の市場調査部で頭角を現し、92年、P&G世界本社へ転籍。世界各国にまたがって、有効な需要予測モデルの開発、世界中の市場分析・売上予測をリードし、量的調査における屈指のスペシャリストとして長年にわたり世界の第一線で活躍。
2012年、盟友・森岡毅の招聘によりユー・エス・ジェイ入社。現在シニア・アナリストとして活躍中。

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