【読書録】『ドキュメント 銀行 金融再編の20年史─1995-2015』-前田裕之著

20年も前のことを今、振り返っても仕方がないとの声が聞こえてきそうだが、当時、日本の銀行界で起きた出来事は決して昔話だとは片付けられず、再び目の前で繰り返される可能性が十分にあるというのが著者の見方である。
なぜなら、当時、日本の銀行が抱えていると指摘された様々な問題は20年たっても解決されたとは言えないからだ。
銀行が構造的に抱える問題が奥深くに潜んでいる以上、いつ表に出てもおかしくない。
-『1章.巨額損失事件で奈落の底に』より引用

銀行史のレポート、読んでみた。
めずらしく業界誌的なものを紹介をしようと思う。

著者は前田裕之氏で、日経新聞の金融業界の記者出身の人物とのこと。
日経はレガシーなメディアで個人的な思い入れはないのだが、あの記事の質と量を毎日維持しているあたり、取材力が極めて高いことは間違いないだろう。

その商品力・取材力の厳選は言うまでもなく記者にあるはずだ。
なので、日経の記者として頭角を表した前田氏の金融業界の知識は相当深いとみて良いだろう。

さて、本著は銀行における1995年〜2015年の20年間の歴史を、ミクロ・マクロの両方の観点から振り返るものだ。
1995年というと、世間的にはバブル崩壊して”失われた20年”に突入、バブルで無茶しすぎた銀行がいよいよ危なくなってきた時期だと考えられる。
のっけから、いきなり大和銀行(現りそなグループの前身)の「ニューヨーク支店巨額損失事件」からスタートする本著は、全体的にピリついた雰囲気で、銀行業界がいかに多くのリスクにまみれていたかということを肌で感じることができる。

1983年、アメリカ合衆国でマツダ自動車のディーラー営業を経て大和銀行(当時)ニューヨーク支店の本社採用嘱託行員となった井口俊英は、変動金利債の取引で5万ドルの損害を出す。
損失が発覚して解雇されることを恐れた井口は、損失を取り戻そうとアメリカ国債の簿外取引を行うようになる。
井口は書類を偽造して、損失を社内でも限られた人間しか知らないシステムコードで隠蔽していたため、表面的は利益を出しており、上司の信用も増していった。
同支店の管理体制には、国債のトレーダーと支店の国債保有高や取引をチェックする人が同一人物という不備が存在しており、支店長は「海外で箔を付けにやってくる『飾り物』」という状態であったため、実質的に支店ナンバー2として支店業務を統括していた井口の不正は12年も発覚せず、1995年には大和銀行の損失は11億ドル(当時の対円ドルレートで約1100億円)にも膨れ上がった。
井口は膨れ上がった膨大な負債を処理しようとますます大きなトレードを行うようになった。
あまりにビッグプレーヤーになってしまった井口の取引は、市場参加者に井口の手を容易に読まれて、市場で捌ききれなくなり、完全に破綻してしまった。
-Wikipedia『大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件』より
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%92%8C%E9%8A%80%E8%A1%8C%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%AF%E6%94%AF%E5%BA%97%E5%B7%A8%E9%A1%8D%E6%90%8D%E5%A4%B1%E4%BA%8B%E4%BB%B6

僕は、普段からメガバンクを始めとした銀行を結構バカにしているのだが、別に適当にディスっているのではなく、ある程度ポイントを理解した上で上でディスっているつもりだ。
とはいえ、メガバンクの成り立ちなど、金融業界やひとつの銀行の歴史を俯瞰して知ることはまだまだできていなくて、本著を手に取った次第である。

結論から言うと、銀行の歴史を知るのにこれ以上無いほどの良著で、あとは1995年までの歴史を学べば業界理解としては十二分だろう。

バブル時代の狂乱こそ描かれていないが、学ぶべき本質は破綻処理にこそある。
その部分を重点的に学ぶことができるので、非常に有益な本である。

また、本著のもう一つの特徴として、銀行の中心人物(頭取や事業のマネージャークラスであることが多い)にスポットを当てて、主人公的に扱う章が存在する。
このような展開をすることで、ミクロ的な視点を取り入れた歴史俯瞰をすることができているのも、非常に重要なポイントだ。

そのような描写ができるのも、日経記者として主要人物に取材を重ね、理解を深めることができている前田氏ならではであろう。
銀行業界に居る人・目指す人以外の、多くのビジネスマンにも勧めたい良著である。

ドキュメント 銀行 金融再編の20年史─1995-2015

<概要>
経済人・金融関係者必携!日経新聞編集委員が描く、激動の20年史。
バブル崩壊、不良債権、追い貸し、合併というどん底の時代に、経営陣はいかに苦闘し、どう行動してきたのか?
メガバンク誕生、長信銀の消滅、規制緩和、その背景・功罪とは? 私たちは今、どう銀行と付き合うべきか?
銀行とはどんなところで、何を考え、どう行動しているのか、よく知っている人は少ないのではないだろうか。
「銀行業とは何か」「銀行は安全なのか」という疑問に答え、これから銀行とどう付き合うべきかを考えるヒントを提供するのが本書の狙いだ。
日本の大手銀行がバブル崩壊後にどのような運命をたどり、5大金融グループがどんな経緯で誕生したのか、その時代を象徴する経営者らが傾いた銀行の再生に奮闘する姿を描き出す。
また、銀行の「新陳代謝」をテーマに、地方銀行・第2地方銀行と、インターネット銀行などの新設銀行を取り上げる。
最後に、銀行業の 本質を、経済理論を紐解きながら解説し、銀行はどうあるべきか問題を提起する。
<著者>
前田 裕之
1986年東京大学経済学部卒、日本経済新聞社に記者職で入社。
東京、大阪で金融機関経営、金融行政・金融政策、年金・雇用・労働問題、企業経営・財務、財界などを担当。
2012年4月から編集局経済解説部編集委員(現在は同編集委員室編集委員)。
経済学の視点を取り入れながら経済現象を分析し、その背景を解説する記事などを執筆している。
主な著書に『激震関西金融』『地域からの金融革命』『脱「常識」の銀行経営』、共著に『松下 復活への賭け』『アベノミクスを考える』(電子書籍)『経済学の宇宙』(岩井克人氏の聞き手を務める)、論文に「経済危機における日本人の意識と行動」ほか。

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