【読書録】『闇経済の怪物たち~グレービジネスでボロ儲けする人々~ 』-溝口敦著(光文社新書)

グレービジネスは成功が約束されたも同然の商売ではない。
一般人が密かに抱く欲望や需要を敏感に察知して、それを商行為に結びつけるビジネスモデルを作り上げる。
そうでなければ成功は覚束ない。
グレービジネスはいわば隙間産業であり、従来、事業家が見逃してきた分野で、消費者の欲望を察知し、その欲望と需要に応えるサービスや物材を提供してシノギとする。
世間や人身の動きを察知するアンテナが鋭敏でなければならない。
-『まえがき』より引用

今回は、法律上のクロとシロの間にある”グレービジネス“を題材とした新書をご紹介。
正直、読む前はあまり期待していなかったというか、”実話ナックルズ”的なもので、ビジネス的な価値はそこまで無いんじゃないかとか考えていた。

読んでみるとむしろその逆で、ワイドショー的エンターテイメント性は驚くほど少ない一方、一般的なビジネスで活きる価値がたくさん散りばめてある。
そういった価値をしっかりと拾いながらも、グレービジネスにしかないエピソードや苦労話を楽しむことが、本書を読む上で心がけるべきことだろう。

コインの表と裏、両方楽しめる良著である。

ビジネスに活きるヒント

冒頭で引用したまえがきにもある通り、グレービジネスだからといって、楽して儲かるということは決してない
例えば、風俗やドラッグ元締めと聞くと、「警察にしょっぴかれる可能性がある代わりに、お金がジャンジャン入ってくるんでしょ」といったイメージが先行するが、本書を読めば、そんなことがないことを理解できるだろう。

というか、世の中には風俗も出会い系もカジノもたくさんあるわけで、そんな簡単に行くはずがないことぐらい、ちょっと考えれば分かることなのだが…
その辺りは私達一般市民の想像力が足りていないところであろう。

さて、本書の随所に散りばめらているヒントについてだが、読めば読むほど、「本来なら実践できて当たり前のこと」であることに気付かされる。

それは、例えば「ユーザーのニーズを常に把握すること(裏情報の提供)」や「扱う商品のことをよく知ること(ドラッグの仕切り屋)」だったり、「スタッフに気を配り、前向きに仕事をしてもらうこと(デリヘル経営)」だったりする。
本書で取材を受けた人物の多くは、ビジネスマンとしてもおそらく十分にやっていけるだろう。

ドラッグの仕切り屋であるK氏の例を出すと、彼は化学式ベースでドラッグを理解し、成分や効果を操り、法の網をかいくぐっていた。

ここで特筆すべきは、彼の勉強に対する集中力であり、没頭力である。

驚くべきことに、K氏は薬学部や理系の大学を出ていない。
理系どころか、大学や専門学校にすら入っていない。
なんと高卒である。
これでは、ネットにのさばる学歴オタクが黙ってしまう。

独学で化学物質を作るどころか、いかにして定時に帰宅し、鼻くそほじりながらスマホいじりするか、ということしか考えていないエリート正社員ちゃんばかりの中、なかなか骨太な人物である。

自分が売ろうとしているものに対して、しっかりと理解を深めることは当たり前のことなのだが、これがなかなか難しい。
それは、アメリカの金融エリートにすらできないことだ。
それができるということは、非常に価値のあることなのである。

まとめ

ビジネスヒントを中心に偉そうにレビューをしてきたが、 もうひとつ書いておきたいことがある。
それは、グレービジネスに生きる人達の”人柄”だ。

元々持っていたイメージとしては、ヤクザ上がりとか元ヤンキーみたいな、ちょっとバイオレンスな人ばかりなのかなぁ、とか思ってたのだが、本書を読んでみると必ずしもそうじゃないということに気付かされた。

もちろん、元ヤクザの人だって取材を受けた人の中にいるし、取材上良い子ちゃんを演じてるという部分も少なからずあるのだろうが、そうでない人だってとても多い。

グレービジネスに行き着いた経緯としては、勉強が得意でなかったり、学校生活に馴染めなかったり、他に就ける仕事がなかったから、というものが多かったのだが、こんなにデキる人たちがグレーゾーンに流れてしまっていることは、すごくもったいない。

別にグレービジネスを悪と断定しているわけではないが、「彼らに一般的なビジネスをやらせてみたらどうなるのか」という興味がやはり湧いてしまうのである。

もし、普通の仕事も同じようにこなせるのであれば、それは社会的にも大きな損失なのではないだろうか。

闇経済の怪物たち~グレービジネスでボロ儲けする人々~ (光文社新書)

<概要>
◆ネットでの裏情報提供業者
◆出会い系サイトの経営者
◆デリヘルの実業家
◆危険ドラッグの仕切り屋
◆闇カジノのイカサマ・ディーラー
◆FXや仮想通貨販売業
◆六本木・関東連合の育ての親
◆純金インゴットの密輸入や振り込めなど特殊詐欺の首領
◆街場の顔役……
法律スレスレの世界で、荒稼ぎする9人の男たち。
――現代の「欲望」を糧として躍動する、彼らの知られざる実態に、極道取材の第一人者が迫る!

<著者>
溝口敦
ノンフィクション作家、ジャーナリスト。
1942年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
出版社勤務などを経て、フリーに。
2003年『食肉の帝王』(講談社+α文庫)で講談社ノンフィクション賞を受賞。
『暴力団』『続・暴力団』(以上、新潮新書)、『詐欺の帝王』(文春新書)など著書多数。

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