【読書録】『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』-マイケル ルイス著(文藝春秋)

問題は、クライアントと接する電子取引担当者が、うわべだけのものにすぎないことでした。
彼らは電子取引の仕組みをまったくわかっていなかったんです。
-2章『取引画面の蜃気楼』より引用

作品紹介

今日紹介するのは、米国の株式市場を蹂躙した”超高速取引”のノンフィクション作。
作者はマイケル・ルイスで、映画『マネー・ショート』の原作にもなった『世紀の空売り』や、野球のデータ戦略『マネー・ボール』が非常に有名なノンフィクション作家だ。

作品を見てると、金融とかデータ周りに強い作家の印象である。



今回の『フラッシュ・ボーイズ』は、米国の株式市場の裏で行われていた”超高速取引”を題材としたものであり、こちらも他の作品に負けず劣らず非常に評価が高い。
といっても、”超高速取引”に関わるポイントが「ネットワーク」だったり「細かいスプレッド(価格差)」だったりと、裏方でかつ地味な感じがあるので、”野球”や”リーマン・ショック”みたいな、見栄えの良い絵ができる他作品のような映画化は期待できないだろう。

地味ではあるものの、ウォール街を占拠する大手投資銀行やトレーダーの本性を伺い知ることができ、私達が信仰している”市場”が、あくまでも人が作ったものであり、完璧なものではないと気付かされる。
そんな危うさもあってか、絶妙なスリルと登場人物のインテリジェンス、そして金をめぐる泥臭い人間関係が入り混じった、少しピリッとした雰囲気が全編に漂っている作品だ。

超高速取引について

冒頭から僕が連呼している”超高速取引”とは、高速なネットワーク通信で市場の判断を行い、自動で自らのポジション(売り値とか買い値、銘柄の設定のようなもの)を変更するアルゴリズムを用いる取引のことだ。

コレの何が問題なの、ってことだが、ざっくりいうと「速すぎてついていけない人が出る」ということだ。
作中から引用すると、人のまばたきの1,000分の1の時間(350マイクロ秒)で、注文の応酬が行われることもあるらしい。
(7章『市場の未来を垣間見る』より)

このレベルのスピードについていこうと思えば、、極めてハイスペックなコンピュータ通信環境の構築が必要になる。
そんな環境を持つことができるのは、限られた者だけになってしまい、結果として不公平な市場になってしまう。

まとめ

作中では、そのような市場になってしまった原因の1つとして、「誰も電子取引のことをよくわかっていない」ことを指摘していた。
確かにそうだと思う一方で、いざ自分の生活を見直しても、そういうことってすごく多いと思うのだ。

たとえば、 通販で買い物をしても、どのボタンを押したら、どんな情報がパラメーターになって、どこに送られるのか、ってあんまりわかってなかったりする。
毎日使ってるシャンプーとか石鹸だって、何が入ってて、どんな効果があるのかも、良く分かってない。

近代社会は、既に情報社会なので、何を知るべきか(=何を知らなくてもよいか)というのは非常に難しい判断が必要である。
だが、それにしても、私たちは何も知らなさ過ぎるのではないか。

指一本で色んな情報に触れることができる現代を、私たちはまだ上手く泳ぎきれないでいる。

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

<概要>
これは凄い本。
2008年のリーマンショックで、ウォールストリートは規制が強化され健全になった、と信じられてきたが、その規制と民主化によって逆に、市場は、本当のイカサマ市場になってしまった、ということを白日の元にさらした本だ。
証券市場の民主化によってニューヨーク証券取引所とNasdaq以外の証券取引所が乱立するようになった2009年ぐらいから、ディーラーたちは不思議な現象に悩まされる。
コンピュータスクリーンが映し出す各証券市場の売値と買値で取引しようとすると、ふっと売り物や買い物が消えてしまうのだ。
その値が消えて、買う場合だったらば、必ずそれより高い値で、売る場合だったらばそれより低い値で取引が成立してしまう。
ウォール・ストリートの二軍投資銀行に務めるブラッド・カツヤマは、ドンキホーテのように、単身調査に乗り出す。
するとそこには、私たちの注文を10億分の1秒の差で先回りしていく超高速取引業者「フラッシュ・ボーイズ」の姿があったのだ。
取引所も、SECも大手投資銀行もすべてぐる。簒奪されるのは、善良な一般投資家。
日本での「フラッシュ・ボーイズ」の跋扈を解剖したFACTA発行人阿部重夫の特別原稿も収録。

<著者>
マイケル=ルイス
1960年ニューオリンズ生まれ。プリンストン大学から、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに入学。
1985年ソロモン・ブラザーズに職を得る。
ちょうど、ソロモンが住宅ローンの小口債券化を開発した時期に立ち会い、その債券を売ることになった。
その数年の体験を書いた『ライアーズ・ポーカー』(1990年 角川書店)で作家デビュー。

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