【読書録】『バッテリーウォーズ 次世代電池開発競争の最前線』-スティーヴ・レヴィン著(日経BP社)

リチウムイオン電池はシリコンチップと重なって見える。
コモディティー化し、業界は雇用もろとも日本に飲み込まれていた。
電池をめぐっても、容赦ない二重の競争が起きている。
より強力で長く使用できて安全な電池を最終的に生み出すのはどこか、そしてその発見がなされた暁にそれを実際に製造するのはどこか、この二点をめぐる争いだ。
-元インテル会長 アンドリュー・グローブより
バッテリーウォーズ13章『アンドリュー・グローブの言葉』より引用

バッテリーという裏方が持つチカラ

今回の書評はバッテリー開発競争のノンフィクション作品。
ここでいうバッテリーとは、とどのつまりリチウム電池のことだ。

言うまでもなく、現代のハードウェア設計において電池の担う役割は裏方だ。
ユーザーからは見えないし、性能が多少向上したところであまり実感がない。

しかしながら、バッテリー技術の進化がイノベーションに大きく影響するのは明白だ。
なぜなら、あらゆるプロダクトがモバイル化(=ワイヤレス化)するからである。

少し前まで、掃除機だってコードを繋いでいたわけだけど、今販売されているものは充電式のものがほとんどだろう。
スマートフォンだって、ガラケー時代と比較すれば、持続時間はかなり伸びたはずだ。
(使用する時間はガラケー時代よりも相当伸びているので、体感としてはあまり変わらないが…)

そして、電池の競争の結晶として最も期待されるのは、電気自動車だ。
電気自動車に対する世間のイメージとして、「環境にやさしい」というのが多いだろうが、本質はそこではない。

電気自動車が世界に与える影響の本質は、「市場に競争が生まれ、価格が下がる」ことだ。
完全な電気自動車が実現すれば、必要な部品数がガソリン車と比べて格段に減少する。
ガソリン車が動くために必要な”エンジン”やら”シャフト”やらが必要なくなるため、自動車業界への参入障壁が圧倒的に下がるのだ。

市場のプレーヤーが多くなれば、当然価格競争が生まれるわけで、私達が自動車を手に入れるためのコストが劇的に下がるだろう。
次世代の電池は、私達の生活をたやすく変えるだけのチカラを持っているのだ。

本の内容について

電池の重要性を少し説いたところで、本の内容に触れていきたい。

まず押さえておきたいのは、この本は電池の”テクノロジー”ではなく”War“、つまり”競争や戦い”にスポットライトを当てているという点である。
テクノロジ本を期待していた自分としては少し拍子抜けしたが、まぁそれは本のタイトルをちゃんと読めば分かるはずだった。笑

では、ここでいう”War”とは何を指すのか。

普通に考えれば、企業研究所間の競争であろう。
それ自体は間違いなくて、実際、本書の中盤以降ではアメリカの国立研究所であるアルゴンヌとエネルギーベンチャー企業のエンビアの競争を中心に展開する。

だが、本著を読んだ後であれば、電池をめぐる争いがそれだけではないことに気づくだろう。
特許争いをすることもあれば、予算を獲得するために政治的闘争を繰り広げることもあるし、働く研究員が上司に対して給料を上げたり、役職を与えるよう交渉をする場面もある。

そう、本著の”War“は、我々の周りでも常日頃から当たり前のように行われているものなのだ。
最先端の米国研究所やイケイケのベンチャーだからといって、我らサピエンスのやることは変わらないのである。いつの世も戦いなのだ。

まぁ、そんな本書の”War”は私たちに身近なものであるが故に、中盤以降は読んでいてぶっちゃけダレ気味
IT業界の闘争であれば、登場人物に有名な人が多くて人物のイメージが湧きやすいが、クマールとか言われても誰?って感じで、知ってる人は殆ど居ないだろう。

だが裏を返せば、地球上の誰もが何らかの”War“に関わる可能性が高いということのはずだ。
サピエンスの飽くなき”War”について、理解を深めることはとても大切なことである。

現状の電池技術と今後の推移

この本を手に取ったり、または調べたりしているということは、少なからず電池について興味を持っている読者の方のはずだ。
では、電池技術の動向をチェックするためにはどうすればよいのだろうか。

結論から言えば、「電気自動車のニュースや情報」を常にチェックすれば、基本的には問題無いと思われる。
なぜなら、冒頭に記載したとおり、電池技術のが電気自動車であるからである。

そこで、現状どうなのかというと、一番の課題は明確で”充電速度”である。


-電気自動車(EV車)の充電時間や料金と充電スタンドの整備状況
http://www.kuruma-sateim.com/eco-car/ev-time-money-stand/

走行可能距離や時間は特に悪くないのだが、充電時間が長すぎる。
ちなみに、”普通充電“とは家庭用の100Vとか200Vのコンセントで充電することで、”急速充電“とはEV専用の充電スタンドを利用した充電のことだ。

ガソリン車との比較となるのは”急速充電”の方だが、大体30分ぐらいかかるようだ。
これは特に長距離ドライバーにとって非常に辛いものになるだろう。

ただ、電気自動車は家庭用コンセントで充電できるので、逆に言えば家や出先のホテルで充電すれば、毎日フル充電状態で出発することが可能だ。
つまり、短距離ドライバーであれば、電気自動車の優位性は高いと考えて良い。

言わずもがな、この充電時間は技術革新によって短くなっているので、このあたりも改善されるであろう。
ただ、世間を少し賑わせたSamsungのスマホ”Galaxy“の発火・爆発事故の原因がバッテリーにあると発表されているので、バッテリー内のリチウムの密度を上げるアプローチでの数値改善はすこし下げ止まるかもしれない。

2017年1月23日にSamsungが記者会見を開き、Galaxy Note 7の爆発・発火問題の調査結果を発表しました。最終的な結論は「バッテリーの問題」とのこと。
Samsugn社内での調査だけでなく、スタンフォード大学やケンブリッジ大学などの専門家を含む外部委員による社外調査も含めてバッテリー3万台をテストした結果、2社から提供されたバッテリーに「絶縁シートが破損する」という問題がそれぞれ発生していたとことを明らかにしてます。
-爆発しすぎて生産・販売中止になった「Galaxy Note 7」の爆発原因をサムスンが発表へ
http://gigazine.net/news/20170122-samsung-press-conference-galaxy-note-7/

であれば、従来と異なったアプローチで性能改善される可能性が高い。
他の元素をうまく使って、リチウムの弱点を補ってあげるというやり方をどう変えるかであるが…

今後の電池産業に、ますます目が離せない。

バッテリーウォーズ 次世代電池開発競争の最前線

<概要>
スマートフォン、電気自動車、ドローン――先端ハードウェアのキーデバイス「リチウムイオン電池」をめぐり激化する開発競争をリアルに活写する、全世界注目のノンフィクション!

<著者>
レヴィン=スティーヴ
2012年に創設された話題のビジネスニュースサイト「QUARTZ(クオーツ)」のワシントン特派員として、エネルギー、テクノロジー、地政学に関するトピックスを中心に執筆活動を続けている。
グーグルのE・シュミット元CEOが会長を務める無党派シンクタンク新アメリカ財団(NAF)のフェロー。
ジョージタウン大学では准教授として安全保障学を教えている 。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。