【読書感想】入門 犯罪心理学(原田隆之氏著)

今まで全くのノータッチだったジャンルに挑戦してみた。

犯罪・犯罪者や社会、そして自分自身に対する考え方が変わるような良著。

早速、感想をアウトプットしようかと。

冒頭

本著では、いくつかの衝撃的な事実が、実際の統計的観測に基づいて提示される。

例えば、冒頭で「神話」という表現をされた、以下の諸説について。

  • 性犯罪再犯率は高い
  • 厳罰化犯罪の抑制に効果がある
  • 貧困精神障害は犯罪の原因である
  • 虐待をされた子供は、非行に走りやすい
  • 薬物がやめられないのは、意志が弱いからだ

ニュースネット小説なんかで聞いたことがあるような話だ。

あなたはこれらの説のうち、どれが本物だと考えるだろうか?
逆に言うと、どれが嘘なんだろうか?

少し考えてみてほしい。

結論から言うと、さきほどの説は全て科学的な裏付けがなく、真実ではない

  • 性犯罪は、窃盗や薬物に関する犯罪と比較し、はるかに再犯率が低い
  • 厳罰化に犯罪抑制効果はなく、むしろ犯罪を増長させてしまう恐れすらある
  • 貧困や精神障害と犯罪の関連性は低く、原因追求のために他の要因にも着目する必要がある
  • 虐待と非行の関連性は低い
  • 薬物がやめられないのは、薬物の依存性のためであり、当人の意志は関係ない

(細かいソースは、本を読んでチェックしてみてね)

なんてこった…全てただの神話だったというわけだ。
僕はぶっちゃけ、性犯罪の再犯率貧困の犯罪との結びつきあたりは正しいものだと信じていました。

どれもこれも、デタラメだったんですな。

犯罪心理学とは

犯罪心理学、ってわかるようでわからない分野だ。
改めてググって調べてみる。

犯罪心理学は、犯罪事象を生ぜしめる犯罪者の特性や環境要因の解明を通して、犯罪予防や犯罪捜査、また犯罪者の更生に寄与することを目的とした心理学の一分野。 応用心理学のひとつに分類される。
-Wikipedia「犯罪心理学」より

ふむふむ。
そして、本著では犯罪心理学をこのように分類している。

犯罪行動に対する科学的な理解を深め、その科学的知識を犯罪の抑止に役立てることを目的とした応用科学である。
-入門 犯罪心理学(ちくま新書)「はじめに」より

このシンプルな解釈に、“科学”という言葉がわざわざ3回も出てくるところがポイント。

いずれにせよ、目に見えない上に、人によって形の違う“心理”を扱うことは非常に難しそうだ。

それゆえに、冒頭で述べたような犯罪への偏見が生まれてしまうのかもしれない。
そんな偏見に対して、自らの“科学”を持って真っ向から立ち向かい、“犯罪”を解き明かす。

それが本著のおおよその方針だ。

犯罪の根源を説き明かせ

実際に、本著の中で解説されている犯罪の原因究明へのアプローチを一部見ていきたい。

まず、著者が繰り返し警鐘を鳴らしているのは「単純化しないこと」「実際の根拠(エビデンス)に基づいた、適切な方策をとること」である。
なぜなら、新たな偏見や差別に繋がることが懸念されるからだ。

例えば、「犯罪者が貧しい者であった」場合、「貧しいから犯罪に至ったのだ」とすることは間違いだ。

まず、「貧しいのに犯罪を犯していない大多数の人間」の存在を説明できていない。
その上、貧困者への差別を助長させる可能性まであるということだ。

単純化”できない(しない)なら答えは明白で、犯罪の原因は“複雑”なのだ。

例えば、「幼少時に虐待を受けたからといって、非行に走りやすいとは限らない(環境要因)」が、「自分をコントロールする力が弱い遺伝的要素を持つ子供(遺伝要因)」が虐待を受ければ、犯罪を行う可能性のある因子が相互作用し、結果として犯罪を犯す可能性がある、といった感じだ。

人は様々な要因を持って生まれ、様々な環境のもと育つ。
それらの要素は複雑に絡み合っているので、何かひとつが原因で、犯罪要因が特定されるようなことなど、ほとんどありえないのだ。

“罰”ではなく“治療”という考え方

罪を犯せば処罰されるのはもちろんだけど、その処罰は果たして適当なんだろうか?
再犯の防止に役立っているのか?

処罰は、ニュースを聞いた一般市民の溜飲を下げる為に存在するわけではない。

ここを見誤ると、処罰そのものが形骸化してしまう。

本著でも言及されていたが、薬物の“使用”で刑務所にぶち込まれるのは、先進国の中でも、どうやら日本ぐらいのようで。
(薬物の密輸密売であれば、世界中どの国でも重い罪に問われるけどね。)

これが何を表すのかというと、日本における薬物依存からの脱却には、当人の意志の力を礎としていることだ。

いやいや、それができないから“依存症”なんじゃないの?
なぜこのような対応になっているのか、その背景はよくわからないが…

実際、日本の薬物使用者の再犯率はかなり高い

なぜだろうか。

理由は簡単だ。
刑務所にぶち込んでも、薬物の依存症からは脱却できず、再犯防止の役に立たないからだ。

多くの欧米諸国では刑罰よりも治療を優先、または選択肢として用意している。

『ドラッグ・コート』
ドラッグ・コートは薬物事犯者(薬物乱用が原因となって犯された他の犯罪も含む)を通常の刑事司法手続ではなく、薬物依存から回復さ
せるための治療的な手続にのせて、その経緯を裁判官が法廷でトリートメント修了時まで1~2年の間集中的に監督し、トリートメントの全課程を修了した被告人に対して、公訴棄却の決定を下して手続を終結させる革新的な裁判制度である。

-アジア太平洋地域アディクション研究所 「フェローシップ・ニュース№.6 米国ドラッグ・コート制度」より
 http://www.apari.jp/npo/drug_coto/1.pdf

確かに、悪いことをしたから罰を与えるというのは当然なのだけど、それは手段であって目的じゃない。
社会は、文明は、これほどまで発展したのに、いつまでハンムラビ法典みたいなことをやってるんだろうか。

最後に

いやぁ〜、初めて手を出すジャンルの本を読むと、知見が得られた感じが(実際どうかは置いといて)すごく強いので、良い気分。

でも、適当に手を出しすぎると「劣化Wikipedia」みたいな、広く浅くな人間になっちゃうし、それもどうかなぁ〜と思い始めてるんだけど、やめられずついつい読んじゃったり。
考えすぎなんかな?

さてさて、本著の感想として、最後にもうひとつ面白いデータを引用しときます。

世界の犯罪データを見ると、どの国にも犯罪を繰り返す者が一定数存在する。それはおよそ人口の数%だが、その少数の者が世の中の全犯罪の6割以上に関与している。
-入門 犯罪心理学(ちくま新書)「第1章 事件」より

ほえ〜、知らなかった。
これって、同じ人が何回も犯罪を繰り返してるってことで、再犯防止の重要性が問われていると思います。

だからこそ、犯罪の適切な原因究明を行なって、一度踏み外してしまっても、もう二度と同じことを繰り返さないような仕組みを作ることが急務だと考えます。

明日、何かの事件に、あなたも巻き込まれるかもしれないのだ。
犯罪者の処遇に、一喜一憂してる場合ではない。

犯罪に関して、誰も無関心ではいられないのだ。
平和な社会を築くため、本当に必要なことが何なのか、これからも変わらず問い続けることが大切である。

入門 犯罪心理学 (ちくま新書)

<概要>
近年、犯罪心理学は目覚ましい発展を遂げた。

無批判に信奉されてきた精神分析的をはじめ実証性を欠いた方法が淘汰され、過去の犯罪心理学と訣別した。
科学的な方法論を適用し、ビッグデータにもとづくメタ分析を行い、認知行動療法等の知見を援用することによって、犯罪の防止や抑制に大きな効果を発揮する。

本書は、これまで日本にはほとんど紹介されてこなかった「新しい犯罪心理学」の到達点を総覧する。
東京拘置所や国連薬物犯罪事務所などで様々な犯罪者と濃密に関わった経験ももつ著者が、殺人、窃盗、薬物犯罪、性犯罪などが生じるメカニズムを解説し、犯罪者のこころの深奥にせまる。

<著者>
原田隆之
1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。
法務省法務専門官、国連Associate Expert等を歴任。

現在、目白大学人間学部心理カウンセリング学科准教授。
東京大学大学院医学系研究科客員研究員、東京都医学総合研究所客員研究員。

主たる研究領域は、犯罪心理学、認知行動療法とエビデンスに基づいた臨床心理学である。
テーマとしては、犯罪・非行、依存症、性犯罪等に対する実証的研究を行っている。

(Amazonの製品紹介ページより引用)

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